フォレンジックとは?デジタルフォレンジックとの違いも踏まえて、正しい意味・定義を解説!

目次
フォレンジックの基本概念と歴史

フォレンジック(Forensics)という言葉を聞いたことはありますか?実は、この言葉はもともとラテン語の「forensis」から来ており、「法廷の」「公開討論の」という意味を持っています。
現代では、科学的手法を用いて証拠を収集・分析し、法廷で使用可能な形で事実を明らかにする学問として定義されています。皆さんもテレビの科学捜査番組で見たことがあるでしょう。
フォレンジックの歴史を振り返ると、19世紀後半から科学的な捜査手法が発展し始めました。指紋鑑定、血液型判定、DNA鑑定など、物理的な証拠を科学的に解析する技術が確立されてきたのです。
意外と知られていませんが、日本でも1950年代から科学捜査研究所が設立され、フォレンジック技術の研究が本格化しました。当時は主に物理的な証拠の分析が中心でしたが、コンピューターの普及とともに新たな分野が生まれることになります。
デジタルフォレンジックとは何か

デジタルフォレンジックは、従来のフォレンジックがデジタル時代に進化した形といえるでしょう。GMOセキュリティの専門サイトによると、デジタルフォレンジックとは、コンピュータやネットワークに関する犯罪や事件の調査・解析技術のことと定義されています。
この技術は、デジタル機器に残された証拠を収集し、サイバー攻撃やセキュリティインシデントの事実関係を明らかにするために活用されます。現代社会のデジタル化の進展に伴い、その重要性は飛躍的に高まっているのです。
警察庁の説明によると、「電磁的記録は、犯罪捜査において重要な客観証拠となる場合がある一方で、消去、改変等が容易であるため、これを犯罪捜査に活用するためには、適正な手続きにより解析・証拠化することが重要」とされています。
専門的な知識と技術を駆使して、ハードディスクやスマートフォン、ネットワーク機器などから、削除されたデータや隠されたファイルを復元し、分析するのがデジタルフォレンジックの特徴です。
フォレンジックとデジタルフォレンジックの違い

では、フォレンジックとデジタルフォレンジックは具体的にどう違うのでしょうか?これは多くの方が混同しやすいポイントですね。
フォレンジックは科学的証拠分析の総称であり、物理的証拠(指紋、DNA、血痕など)から化学的証拠(薬物、爆発物など)まで幅広い分野を含みます。一方、デジタルフォレンジックはその中の一分野として位置づけられます。
項目 | フォレンジック | デジタルフォレンジック |
---|---|---|
対象 | 物理的・化学的証拠全般 | デジタルデータのみ |
証拠の特性 | 物理的に存在する | 電磁的記録(消去・改変が容易) |
分析手法 | 顕微鏡、化学分析など | 専用ソフトウェア、ハッシュ値解析など |
証拠保全 | 物理的な保管 | 完全コピー(イメージング) |
ちなみに、デジタルフォレンジックの中でも、コンピュータフォレンジック、ネットワークフォレンジック、モバイルフォレンジックなど、さらに細分化された専門分野が存在します。
デジタルフォレンジック調査の目的

デジタルフォレンジック調査は、様々な目的で実施されます。GMOセキュリティの解説によると、主に以下の4つの目的があります。
サイバー攻撃の被害状況の把握
サイバー攻撃によるシステムへの侵入や情報漏洩の被害状況を正確に把握することが、最も重要な目的の一つです。具体的には、サイバー攻撃の種類や手口、影響範囲を特定します。
被害状況を把握することにより、法的措置への移行が可能になるだけでなく、関係者に対する適切な説明や情報開示にも役立ちます。
被害発生時の原因究明
システム障害やデータ改ざんなど、被害が発生した際の原因を究明することも重要な役割です。原因を正確に特定することで、再発防止に向けた具体的な対策の立案が可能となります。
例えば、不正アクセスの痕跡を調査し、システムの脆弱性やセキュリティホールを特定します。内部不正の可能性がある場合は、アクセスログなどの分析により、犯行の手口や関与者を特定することも可能です。
再発防止策の策定
調査結果を基に、再発防止のための対策を策定します。システムの脆弱性を洗い出し、環境や人員を適切に整えることにより、セキュリティ強化に繋げることが可能です。
再発防止策の一例として、以下のような対策が挙げられます:
- ファイアウォールの設定強化
- 認証システムの改善
- 内部統制の見直し
法的措置・訴訟準備
調査によって被害状況や原因が明確になれば、法的措置・訴訟準備をスムーズに進められます。デジタルフォレンジック調査によって得られた情報は、法廷での重要な証拠となります。
調査の種類と対象

デジタルフォレンジック調査は、その対象によってさまざまな種類に分類されます。実際の現場では、以下のような調査が頻繁に行われています。
マルウェア感染調査
マルウェアに感染した際の調査では、PCやサーバーのログを解析し、マルウェアの種類や感染経路、被害状況などを詳細に解明します。マルウェアは他のシステムにも感染する恐れがあるため、迅速な解析と対策が非常に重要です。
兆候が少しでも見られたらマルウェア感染調査を実施し、システムのメモリやログファイルの分析を行うことがポイントとなります。
従業員による情報持ち出しの調査
従業員による不正な情報持ち出しが疑われる場合、内部的なデジタルフォレンジック調査が必要です。この調査では、持ち出された情報の内容や時期、方法などを特定することが主な目的となります。
具体的には、PCやスマートフォンのファイルアクセス履歴、メール送信履歴などを詳細に分析し、被害状況と原因の解明を進めます。
Webサイトの改ざん調査
Webサイトが不正に改ざんされた際の調査・分析も重要な分野です。攻撃者の手口や侵入経路などを解明し、再発防止に役立てることが求められます。
改ざんのリスクを軽減してWebサイトの復旧を早めるためには、一時的な公開停止やネットワーク遮断の実施も選択肢に入るでしょう。
調査で重要となるポイント
デジタルフォレンジック調査を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを理解しておくことで、より効果的な調査が可能になります。
被害拡大防止のため迅速に対応する
インシデント発生時は迅速な対応が求められます。なぜなら、初動対応の遅れが証拠の消失や、被害の拡大に繋がる恐れがあるためです。
例えば、デバイスがマルウェアに感染している場合、他のデバイスにも感染する恐れがあるため、感染機器を速やかにネットワークから隔離することが重要です。
ログが流れる前に証拠保全を徹底する
証拠となるログが上書きされる前に、速やかに証拠保全を行う必要があります。重要なログの大半は保存期間が設定されており、証拠保全まで時間が経ってしまうと、ログが流れて十分に調査できない可能性があります。
特にシステムログやネットワークログは、時間の経過とともに上書きされる可能性が高いため、早期に保全することが大切です。
根本的に原因を調査する
インシデント発生の根本的な原因を究明しなければ、再度同じようなインシデントが起こるリスクがあります。そのため、表面的な現象だけでなく、根本的な原因を究明することがポイントとなります。
調査の流れと手順
デジタルフォレンジック調査は、一般的に以下のような流れで実施されます。各段階で適切な作業を行うことで、有効な調査結果の取得に期待できます。
- インシデント発生時の状況を把握する
- データ収集・証拠保全作業を行う
- 保全したデータを調査・解析する
- 調査結果を関係者に報告する
インシデント発生時の状況を把握する
まずは、インシデント発生時の状況を速やかに把握します。主に現場のヒアリングを通して、被害規模や影響範囲、緊急度などの把握を進めます。
データ収集・証拠保全作業を行う
インシデントに関連するデータを収集し、証拠として保全する作業が次の段階となります。データの改ざんや消失を防ぐため、適切な手順に基づいて作業を行うことが不可欠です。
データ収集を行うべき項目:
- パソコンのハードディスク
- スマートフォンの通信履歴
- 各種サーバーのデジタルデータ
保全したデータを調査・解析する
保全したデータを詳細に調査して、事実関係を解明する段階に入ります。この段階では、タイムラインの作成やログの分析など、専門的な解析作業が必要です。
調査結果を関係者に報告する
最後に調査結果をまとめ、経営陣や関係部署、法執行機関等に報告します。報告内容を基に、再発防止策の実施やセキュリティ強化に繋げることが重要です。
主要なツールと技術
デジタルフォレンジック調査では、専門的なツールや技術が必要不可欠です。現場でよく使用されるツールをいくつか紹介しましょう。
まず、証拠保全の段階では、完全なディスクイメージを作成するためのハードウェア・ソフトウェアが使用されます。これにより、元のデータを改変することなく調査を進められます。
データ解析の段階では、削除されたファイルの復元、ログファイルの解析、ネットワークパケットの分析などを行います。特に重要なのは、ハッシュ値による証拠の同一性確認です。
また、タイムライン分析により、インシデントの時系列を正確に把握することも重要な技術の一つです。これにより、攻撃者の行動パターンや侵入経路を特定できます。
法的な観点と証拠能力
デジタルフォレンジック調査において、法的な観点は非常に重要です。調査で得られた証拠が法廷で認められるためには、適切な手続きと証拠の完全性が保たれている必要があります。
特に重要なのは、証拠の連続性(Chain of Custody)の確保です。証拠がいつ、誰によって、どのように収集・保管・分析されたかを明確に記録する必要があります。
また、プライバシーや個人情報保護の観点も考慮しなければなりません。従業員のプライベートな情報と業務関連情報を適切に区別し、必要最小限の範囲で調査を行うことが求められます。
実際の企業での活用事例
私がこれまで関わってきた事例の中で、特に印象的だったのは、ある製造業企業での内部不正調査でした。設計図面が競合他社に流出した疑いがあり、緊急にデジタルフォレンジック調査を実施することになったのです。
調査の結果、特定の従業員のPCから大量のファイルが外部ストレージにコピーされた痕跡が発見されました。さらに、メールログの分析により、競合他社の関係者との不審な連絡も明らかになりました。
この事例では、迅速な証拠保全と詳細な解析により、法的措置に必要な証拠を確保することができました。また、調査結果を基に、ファイルアクセス制御の強化や従業員教育の見直しも実施されました。
GMOサイバーセキュリティ byイエラエでは、こうしたデジタルフォレンジック・インシデントレスポンス支援を提供しており、インシデント発生時の証拠保全から、データ解析、関連情報の抽出、報告までを一貫して対応しています。
今後の課題と展望
デジタルフォレンジック分野は、技術の進歩とともに新たな課題に直面しています。クラウドサービスの普及により、証拠がオンプレミスではなくクラウド上に存在するケースが増加しています。
また、IoTデバイスの普及により、調査対象となるデバイスの種類も飛躍的に増加しています。スマートフォンやタブレットだけでなく、車載システムやスマート家電なども調査対象となる可能性があります。
暗号化技術の高度化も大きな課題です。より強固な暗号化により、証拠の解析が困難になるケースも増えています。一方で、人工知能や機械学習を活用した新たな解析手法の開発も進んでいます。
国際的な連携も重要な課題です。サイバー犯罪は国境を越えて行われることが多く、各国の法執行機関や民間企業との連携が不可欠となっています。
まとめ
この記事では、フォレンジックとデジタルフォレンジックの違いから始まり、調査の目的、種類、重要なポイント、実際の調査プロセスまで詳しく解説してきました。
デジタルフォレンジックは、現代企業のセキュリティ対策において欠かせない技術となっています。サイバー攻撃の高度化・複雑化に伴い、その重要性はますます高まっていくでしょう。
重要なのは、インシデント発生時の迅速な対応、適切な証拠保全、そして根本原因の究明です。これらを適切に実施することで、被害の最小化と再発防止を実現できます。
もしデジタルフォレンジック調査の実施を検討されている場合は、専門知識と豊富な経験を持つプロフェッショナルに相談することをお勧めします。GMOサイバーセキュリティ byイエラエのような専門サービスを活用することで、より効果的なインシデント対応が可能になるでしょう。
セキュリティインシデントは「起きるかもしれない」ではなく「いつか必ず起きる」ものと考え、事前の準備と適切な対応体制の構築を進めていくことが重要ですね。
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